There's Something Fishy

映画研究、文芸批評、テニス評論

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『ブリッジ・オブ・スパイ』讃

冒頭、鏡に映る虚像として画面に導入されたソ連のスパイ(ということになっている男)は、続いて彼が描いている自画像に媒介された後で、初めて直接カメラの前に顔を晒すことになる。ここで強調されているのは彼を見つめる他者の視線の不在であり、じっさい…

ボウイが死んだ日

「でも、俺らが言うのも何だけどさ。ナンパしてついてくるような女って、正直どうよ?」 隣のテーブルでは先ほどから大学生風の男たち三人組が今日のナンパの戦果を報告し合っている。声をかけた女性のうち、何人からLINEのIDを聞き出し、そのうち何人からど…

『PASSION』(濱口竜介、2008年)

画面中央やや左に鎮座している巨大煙突から吹き出す白煙が画面左方向への艶かしい運動によって観客の視線を釘付けにしている間、スクリーン外からは男女の話し声が聞こえてくるのだが、どうやらここで彼らは「奇跡」について何ごとか語っているようで、ゆる…